音楽雑学

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シンセサイザー

電子楽器の開発者には理想の音Aを目指すシュミレーションと、どこにもない音Xを作ってしまうシンセサイズの2つの傾向が見られる。前者は理想に向かってA1、A2、A3、とバージョンアップを続けられないが、後者はx、y、zと同一平面上に変化を並べているだけだ。テレミンのような電子楽器初期からムーグ等のシンセ黎明期にかけては、いわゆる前衛の時代であったこともあって、未知の音響をシンセサイズすることに力点が置かれていた。しかしDX7を皮切りにデジタルシンセが市場に登場した80年代初めからは、楽器メーカーもミュージシャンも多くがシュミレーションを指向した。

この時期の音楽トレンドが透明感のあるリアルな音色を追求したこともあり、次々に開発された新方式のデジタルシンセとは、要するに業界全体としての音色のバージョンアップだった。その後、サンプラーの高性能化と復旧がシュミレーションを無化し、再びシンセサイズに注目集めた。というより、バージョンアップの思想から全てが並列でどれを用いるのも完全に等価だという捉え方へと枠組みが変わったと見るべきだろう。
あらゆる素材から優劣の関係を剥ぎ取るハウスミュージックの世界でアナログシンセの復権が始まったのはけして偶然ではないのだ。

メロトロン

メロトロンはプログレッシブロックの流行によって世界的に有名になってしまったが実はメロトロンのアイデアは盗用であった。すでに50年代にアメリカ人ハリーチェンバレンがまったく同じものを作って細々と売っていた。ビールフランケンはチャンバリンから購入し、そのコピーをパクリ製作したのだ。しかし工場を持たず量産できなかったチェンバレンより、メロトロニック社を設立、モデル300や400を量産し始めた後発のメロトロンの方が成功してしまった。

これは鍵盤の数だけの音程に対応するアナログサンプリングされたテープとテープヘッドが用意され、打鍵すると約7秒間再生される。テープは8分の3インチで3トラック、レバーによりヘッドの位置を移動させ、音速のバリエーションを得るというものだった。
テープ特有の不安定さが哀愁のあるワンフラッターのかかったストリングスや合唱などのサウンドを提供した。ちなみにビートルズのストロベリー・フィールズ・フォーエバーのフルートの音色はメロトロンによるものである。ムーディーズブルース、イエスなどはこの楽器を愛用したバンドは多い。もちろんデジタルサンプリングマシンと異なりこの近く聞きたいにサンプリング機能はない。

シーケンサー

音そのものではなく演奏記録するという発想は古くからあった。オルゴールや紙ロール式の自動ピアノなどはデーターと発音の1対1対応という点でアナログシーケンサーにそのまま継承されたシステムだ。こうした自動演奏の系譜に連なりながらもむしろ作曲試奏の面で音楽そのものに大きな影響与えたのがコンピューターのシーケンサーソフトを中心とするデジタルシーケンサーのシーンから。ポピュラー音楽のほとんどは特にバンドスタイルでは直感的に把握できる規模の楽曲ことが基本だ。しかしシーケンサーがこうした直感的な判断をいったん数値がグラフィックに変換する時、操作者は必然的に楽曲を様々な要素からなる構築物として俯瞰することになる。

クラシックのように記譜を前提とする音楽では作曲者たちが修練を積んで獲得してきたこの俯瞰の技術が、テクノロジーの援助によって誰にでも簡単に得られるようになったわけだ。レコードに収められた楽曲は完結した装置かもしれないが、シーケンサに記録されたデータとは編集を待つ素材に過ぎない。すべての素材を時系列から切断された空間に並べ、アニメーションのように音楽の時間そのものを編集していくセンス。これこそが現代の様々な電子的ポップミュージックの出発点だ。

TR808。グルーヴやのりと呼ばれ記述不可能と思われてきた領域にロジカルに数値化ができる年を発見実現してみたのが日本人に真似できないグループなどこの国でことさら神秘化された黒人であるのは興味深い。ダンスクラシックやディスコチューンからダンサブルな瞬間に的を絞ってサウンドの骨子を抽出し電子楽器に作動し反復するハウスの方法論や、もっと端的にノリが良い楽曲の1部を略奪しすることでいわば元ウィルスの培養によるキメラ生物的サウンドを捏造するヒップホップの流儀には単純化によるグループの純化が見られる。

808はまずこういったジャンルで歓迎された。およそリアルなドラムとはかけ離れた、しかしそれゆえに抽象化されたビート空間の構築にはうってつけなアナログ音色。下半身に効くバスドラムの低域の豊かさ。16個ボタンのLEDマトリクスによる視認性の良さ。ハード的制約から来る発音のばらつきの快感。しかしここではあえてデジタルシーケンサーや見てにより前にグループの視覚化、マトリックス顔を進めるための重要なツールであった点にこそ、注目すべきであろう。この1点においてたとえ909とともにその音色が飽きられたとしても808が電子楽器の歴史に名をとどめることは間違いない。